かけがえのない景色を七五三の写真に残して 多田明日香さん 新作着物に込めた思い

空を見上げたら面白い色の雲が浮かんでいた。公園に行ってみたら、かわいい木の実や蝉の抜け殻を見つけた。今まで知らなかった景色を子どもがたくさん教えてくれて、私の創作活動の幅を広げてくれています。


2024年、クッポグラフィーの七五三の新作着物をデザインした、グラフィックデザイナーの多田明日香さん。子どもが生まれてからの3年と少し、創作活動にも変化が起きていると話します。


新境地でつくられた新作着物には、出産から子育ての日々を通して感じたことをもとに、独自の制作方法でつくり上げたデザインが施されています。


多田明日香さんにインタビューを行い、制作の裏側から自身のお子さまとの七五三撮影、そして新作着物に込めた思いを伺いました。


多田さんが体感した、クッポグラフィーの七五三撮影についてのインタビューはこちら

多田 明日香(ただ あすか)さん

グラフィックデザイナー。広告代理店に勤務する傍ら、スカーフブランド「La」を立ち上げ創作活動を行う。「La」では、日々の記憶や思考、旅先の景色を色鮮やかに表現し、1枚の中にぎゅっと詰め込んだアートワークを発表している。3歳、0歳の子育てにも日々試行錯誤しながら楽しんでいる。

星 恵(ほし めぐみ)

ヘアメイクアーティスト。文化女子短期大学生活造形学科を卒業し、デザイン事務所に勤務。出産後はアパレル業界へ転身。2015年クッポグラフィー入社。着物の着付けも担当しながら撮影に入る中、よりクッポグラフィーのコンセプトにあった着物を取り入れられないかを模索。以降、8年に渡りオリジナルの着物制作を担当している。

◆たくさんのご家族の大切な日の一部になれる喜び

ーー多田さんは、広告代理店に勤務をされながら、個人としては、スカーフブランド「La」を立ち上げて活動をされているそうですね。

多田さん:普段は広告やパッケージなど企画やデザインの仕事をしているのですが、個人でも何か表現をする場をつくりたいなと考えていました。好きなことやできることに思いを巡らせていたときに、自分がつくったものが誰かの生活の一部になってほしいという考えにたどりついて。スカーフだったらカジュアルに身に着けられるかなと思って、7年前から始めました。

ーー七五三の着物の柄としては珍しいデザインですね。今回の依頼が来たときは、どのような気持ちになりましたか?

多田さん:子どもが身につけるもの、しかも着物のデザインは今までにない試みで。ご依頼をいただいたときはとても嬉しかったです。特に七五三はメモリアルなイベントですし、たくさんのご家族の大切な日の一部に関わることができて胸がいっぱいです。


星:デザインを初めて見た時のスタッフの反応もすごくよかったです。素敵!とみんな喜んで、すぐに生地の制作へと進みました。


多田さん:よかった…。自分がデザインした柄が着物の形になったのを見て、感動しました。お子さまも気に入ってくださるといいですね。

◆子どもの想像力を掻き立てる 色や光の表現

ーー柄は4種類。それぞれのコンセプトの文章も多田さんが考えられたそうですね。どのような思いが込めたれているのかを教えてください。

多田さん:3歳のお子さま用の柄は2種類あります。こちらの「reflection 〜光・未来〜」は、産まれた瞬間の、子どもの目の前に広がる光をイメージしました。

「reflection 〜光・未来〜」

突然目の前が光で溢れ産声を上げた

その日から色というものを知った

世界にはまだ見たこともない色で溢れている

多田さん:ちょうどデザインを考えていた時期は、次男を産んで間もない頃でした。


星:そうでしたよね。


多田さん:まだ赤ちゃんの次男を眺めながら、真っ暗なお腹から出てきた瞬間は、もしかしたらすごく明るかったのかな。お腹にいたときとは全く違う世界を見た瞬間って、どんな気持ちだったのかな。多分、こんな色が飛び込んできたのかなと想像を巡らせる中で、光や木々が揺れるイメージが浮かんできました。


星:確かに眩しい光の感じが伝わります。


多田さん:全て私の妄想なんですけどね。デザインに添えた文章にも、私自身の記憶の中で当時まだ鮮明に残っていた産声や光という言葉を使って、これからの子どもたちの未来に思いを馳せながらつくっていきました。

ーーご自身の体験がデザインにも色濃く表れているのですね。3歳のお子さま用のもう一つの柄「daily 〜日常・家族〜」は、どのようなイメージからつくられたのですか?

多田さん:子どもが産まれたことで、夫婦2人の人生から新しい家族の形へと変化していく日々をイメージしました。

「daily 〜日常・家族〜」

新芽や蕾はまだ曖昧な色をしていて

朝露を纏って日に日に色を増していく

おはようと、おやすみを繰り返して

わたしたちは家族になっていく

多田さん:今までは夫婦2人の家族だったところに子どもができて、日々の生活をともにすることで、“家族”になっていくような。新しいチームが出来上がっていくような。そんなことを考えながら制作をしていました。

ーー子どもと家族になっていくという表現がしっくりきます。

星:そうですね。多田さんの言葉に、新芽や蕾という表現があったので、それをヒントに被布には花柄を施してみました。

(写真)被布にはうっすらと花の模様が。ボタンにも着物の柄と同じデザインが施されている。

多田さん:言葉を拾ってデザインに落とし込んでいただいて嬉しいです。2歳から3歳にかけて、おめかしやオシャレに目覚め始める子もいらっしゃると思います。まだ淡いけれど少しずつ芽生える感覚を、新芽や蕾という言葉で表現をしてみました。


星:髪飾りを選んだり、着物を選ぶときも、特に女の子は目をキラキラさせている子が多いです。


多田さん:星さんからそんな情報も伺っていたので、イメージの材料にさせてもらいました。

ーーそして、5歳と7歳の着物は、これまでクッポグラフィーで取り入れていた色味との印象が異なりますね。

星:今回は、鮮やかな色彩も取り入れてみました。今までとは違う印象の柄をご用意したことで選択肢が広がって、皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。

「atmosphere ~宇宙・可能性~」

どこからが空なのだろう​

手の届かない数センチ先はもう空なのかもしれない​

そしてそのずっと先には宇宙が広がり続けている​

星:5歳のお子さま用の「atmosphere ~宇宙・可能性~」は、壮大なテーマですね。


多田さん:5歳の男の子が好みそうな、青色や紺色を取り入れようというところから考え始めました。青から連想する中で、空や、その先の宇宙を思い浮かべながら。宇宙って、頭上にあるはずなのに見えないですよね。見えないけれど必ずそこにある、壮大な世界を思い浮かべていると、子どもたちの可能性も広がっていくようなイメージもわいてきて。夜にそんなことを考えていたら、楽しくて眠れなくなってしまいました(笑)

ーーお子さまの想像力も掻き立てられそうなデザインですね。楽しんで着てくれそうです。そして、7歳の女の子用の「recollection ~花・記憶~」は、かわいらしさの中にある大人の印象を感じました。

「recollection ~花・記憶~」

目の前いっぱいに咲く花を見上げた顔を覗くと​

花々がその瞳に映り込んでいた​

今日のことをあなたは覚えていないだろう​

ならば、私が代わりに覚えておくことにしよう​

その花の可憐さや、花を揺らす風の音も

多田さん:幼少期に目にしたものの中には、そのときにしか感じられない世界がたくさんあったと思います。「あの花はきれいだったね」「公園で見た夕日はまぶしかったね」と、一緒に見て感動した記憶は、その後子ども自身の中に残っていなかったとしても、ご両親の中に残っていることもありますよね。


星:そうですね。たくさんあります。


多田さん:いつの日か大人になったお子さまに、あのとき一緒に感じたものを伝えたい。そんな思いと、お子さまの成長を楽しみに思う気持ちをメッセージに込めてみました。

◆偶然生まれた一瞬の揺らめきを切り取っていく 独自の制作手法

星:多田さんのデザインに魅かれた理由の一つに、独特の制作方法がありました。

ご自身で描いた画の上に、試験管を置いたり、水が入ったビーカーを置いたりすることで、柄が揺れてぼやけるような不思議なデザインが浮かび上がっていますよね。

(写真)画の上にガラス素材を置くことでプラスされる、光や水の揺らめきを利用した手法。偶然の動きを切り取るため、自身の想像を超えたデザインが生まれているそう。

星:斬新ですよね。このデザインを着物にしたらどんなものができるのか、ワクワクして。ぜひ一緒にコラボレーションをしてみたいと思い、お声がけさせていただきました。

ーー普段もこうした手法で制作されているのですか?

多田さん:そうですね。スカーフの柄をつくるときは、描いたものをそのままカメラで撮ることもあるのですが、何度かやっているうちに水を入れた試験管で屈折した像の撮影もするようになりました。敢えてピントをぼかしてみることもあります。自分ではコントロールができない、偶然に起きる現象のほうが面白かったりもするので。

今回は、これまでにやったことがない新しいことにもチャレンジをしたいと思って、ビーカーの中に水を入れたときに起きる揺らめきも利用してみました。左手で水を揺らしながら右手でパチパチ写真を撮って、偶然の瞬間を狙いました。


星:3歳用の着物ですね。面白いですね。

(写真)今回初めて試みたビーカーの水の揺らめきを利用した3歳用の着物のデザイン。子どもが動き回る度に着物の生地が揺れ、色彩がより一層写真の中で映えることに気づき感動したと星は話す。

(写真)髪留めや草履などの小物にも多田さんのデザインを取り入れた。着物とお揃いの小物をつくったのは、今回が初めての試み。

多田さん:普段、スカーフのデザインを制作しているのでよくわかるのですが、色彩を生地上で再現するのは難しかったですよね。生地にしてみたら、思っていた色彩と違うことが多々あるんです。すごく発色がよかったので、出来上がりを見てびっくりしました。


星:試行錯誤でした。特にクッポグラフィーでは、写真に写った時にどう見えるのかが一番のポイントで。多田さんの色彩とスタジオの光の感じが一番良い形で写真に現れるように、生地にしてからスタジオで撮影する実験を何度も試しました。

普段生地にはコットンを使っていますが、発色を良くするためにプラスでポリエステルも使ったことで、より着物が軽くなって。デザインも軽さも、自由に動き回れるクッポグラフィーの撮影にはぴったりでした。

◆子どもが教えてくれる 日々の景色の美しさ 新境地で生まれるデザイン

ーーお子さまが2人生まれて、子育てをしながらの創作活動は大変なこともありますよね。

多田さん:そうですね。子ども以外のことに集中できる時間が限られるようになって作業も細切れで。長時間没頭するようなことはなくなりました。

子どもが生まれる前は、朝から晩まで一つのことに集中して、寝る間も惜しんでやっていましたから。

ーー生活に変化が起きて、仕事に影響はありましたか?

多田さん:私は、日々見ているものや旅先の風景などから色を集めて、その色を思い出しながら創作に活用しているところがあって。あそこの土の色は面白いとか、あのカフェのクッションの色の組み合わせが好きだった、といったように。

でも最近は、これまで見ていなかった景色を知ることができるようになって。世界が広がったように感じています。

ーーこれまで見ていなかった景色ですか?

多田さん:生活の変化とともに日々接する風景も変わってきていて。例えば、毎日自転車で子どもを送迎しているのですが、空を見上げることが多くなりました。

子どもは私の方を見るときは見上げることが多いのですが、そうすると、お星さまや面白い雲が目に飛び込んでくるようで、いつも教えてくれて。昼間に月を見つけたときは、必ず教えてくれます。そんな日々を送るうちに、子どもが生まれる前は、昼間の空を見上げることなんてほとんどなかったなって気づかされて。仕事の帰りが遅かったので、夕日を見ることもありませんでした。


星:子どもから教わることって多いですよね。


多田さん:本当に。公園に行くようになって、木の実や蝉の抜け殻を見つけたり。自分がこれまで暮らしていた中で見つけられなかった景色を子どもが与えてくれたと思っていて。この数年間は、その与えられたものをデザインに落とし込んでいる感覚があります。

ーー多田さんの新しい境地の中で創作した七五三の着物を、お子さまたちが着る姿が楽しみです。

多田さん:この着物を着て、楽しい一日を過ごしてほしいですね。お子さまの成長を家族でお祝いした記憶が、写真とともにお子さま自身の中にも残ってくれたら、私もとても嬉しいです。

取材・文 石垣藍子

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